関西スクエアからのお知らせ

会員の寄稿

『あやかりたい化け物ばなし』
上方文化評論家  福井栄一様

 気付けば今年も残り少ない。
 なにかと慌ただしい大人を尻目に、子どもたちはどこか嬉し気で妙にソワソワしている。クリスマスにはプレゼント、年が明けて元旦にはお年玉を貰えるとの皮算用があるからだ。
 ただ、仕事や雑事に追いまくられている大人だって、たまにはご褒美、贈り物が欲しい・・・。そんな切ない想いの持ち主が読んだら、羨まし過ぎて胸が痛くなるような昔話があるので、読者の皆さんへのお歳暮代わりに紹介しておこう。

 むかしむかし、大坂道頓堀に、花形役者 某がいた。
 ある日、国見峠(大阪府茨木市)の麓に住む老母が急病だとの知らせを受け、急いで生家へ向かった。夕方、峠にさしかかると、藪の中から「おい、待て」と大声で呼び止められた。驚いて振り返ると、一つ目小僧だった。
 某は恐怖で腰が抜けそうだったが、意地でなんとか平静を装い、「俺は役者や。舞台ではお前よりもっと恐ろしいもんへも化けとるで。一つ目小僧ごときが何の用事や」と言い放った。すると某が怖がらないことに気をよくしたのか、妖怪は「お前、おもろい奴やな。わしは峠に千年も棲む白蛇で、化けるのは得意。今もこうして化けとる。どや、今から化け競べといこうやないか。お前が勝ったらこのまま見逃がしたる。負けたらお前を丸呑みや」と持ちかけた。
 某は承知し、「まずは綺麗な娘さんに・・・」と言うが早いか、羽織を頭から被って、女形芸を披露した。しかし白蛇は「見事やが、怖いもんに化けんとおもろない」と不満げ。「ほんなら、お前は何が怖い?」と訊くと、「わしが怖いのはナメクジや。ただ、お前がなんぼ役者でも、ナメクジには化けられんじゃろ。ところで、お前の怖いのは何や?」と逆に問うてきた。小判.jpgそこで某は「俺が怖いのは大判小判や。あの山吹色のキラキラが目にしみて、嗚呼、怖ろしや怖ろしや」と震え上がったか思いきや、いきなり羽織と着物をぱっとめくった。剥き出しになった某の背中には、大きなナメクジの彫物。白蛇は「ぎゃっ」と叫ぶと、あっという間に姿を消した。
 さて、こうして某は白蛇をなんとかやり過ごし、急いで生家へ駆け込んだ。病床の母親は、予期せぬ息子の里帰りに大喜び。蒲団から抜け出して、涙ながらに息子に抱きついた。
 某は老母を寝かせ、あれこれ世話を焼きがら積もる話を聞かせた。
 さて、その日の夜更けのこと。戸口でガタリと怪しい物音がした。某はてっきり盗人だと思い、火吹竹を片手にそっと近付いてみた。 すると、土間に見慣れぬ大きな袋が転がっている。
 訝しがりながら開けてみると、中には眩しく輝く大判小判がぎっしり詰まっていた。例の白蛇が某の言葉を真に受け、驚かされた仕返しのつもりで投げ込んだのであろう。

(完)