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会員の寄稿

笑いのワクチンで免疫力アップ!京都の夏まつり
フリーアナウンサー&ライター 坂口智美様

shinkigeki_omote.jpg 京都の夏と言えば、衹園祭。今年は2年ぶりに山鉾が組み立てられ、沿道に並んだ。7月10日、四条鴨川沿いの400年以上の歴史を持つ南座では、「松竹新喜劇 夏まつり特別公演」初日の幕が開いた。夏の南座での公演は6年ぶりだ。松竹新喜劇は創立70年あまり、三代目渋谷天外を中心に笑いと涙が絶妙に入りまじった上方喜劇を全国に届けている。

 今公演は、新作喜劇『一休さん』(写真右上・右下、©松竹)と新喜劇十八番の名作『愛の小荷物』の二本立て。外部から豪華なゲストも加わった。新作喜劇『一休さん』右から渋谷天外、毎田暖乃、藤山扇治郎、桐生麻耶.jpg第一部は、ご存知、小坊主である一休さんが京都で修行しながら、とんちによって難題を解決するお話。一休には、劇団の将来を担う俳優として期待され、平成27年に大阪文化の振興に貢献したとして「咲くやこの花賞」を受賞した藤山扇治郎。おっとりとして人の心を和ませ琴線に触れる「間」と「声」は、どことなく祖父・藤山寛美や叔母・藤山直美を彷彿とさせる。そして、劇団に縁の深いゲストが二人。松竹新喜劇と同じく道頓堀で誕生し、松竹傘下でスタートを切ったOSK日本歌劇団の桐生麻耶(きりゅう・あさや)が武家の蜷川新右衛門役に。‟唯一無二の男役"と称されたトップスターで、特別専科に移籍してすぐの外部出演で文字通りの「男」の役を演じることになった。新作喜劇『一休さん』右から藤山扇治郎、桐生麻耶.jpg女性ばかりの歌劇団では、歌・ダンス・芝居とそれはもう完璧な男役で多くの歌劇ファンを虜にしているが、本物の男性と混ざっての舞台はさて、、、その思いは杞憂だった。桐生ならではの自然で繊細な演技、長身で水も滴る男ぶりであった。座長の渋谷天外が「うちにもこんな二枚目が欲しいわ」と言わしめた通りである。二年前の南座公演『歌劇 海神別荘』では海の公子役で泉鏡花の世界を堪能させてくれたが、特別専科に移籍後、初の外部出演での「男」役は、今後の活躍の場を大きく広げるに違いない。千穐楽まで桐生を男性だと思っていた観客も多かったようなので、キャスティングは成功したといえよう。彼女も藤山扇治郎と同じく、令和元年の「咲くやこの花賞」を歌劇人として初めて受賞している。
 もう一人のゲストが、毎田暖乃(まいだ・のの)。松竹新喜劇創設メンバーの一人・浪花千栄子をモデルとしたNHK連続テレビ小説『おちょやん』の主人公・千代の幼少期と娘役で高い演技力が話題になった9歳だ。テレビでは河内弁の見事さと、哀愁まで漂わせて物語に引き込むパワーには驚いた。「初舞台でめちゃめちゃ緊張してます」ということだったが、しっかり者で兄想いの小夜役を大人顔向けの演技で、観客をうならせた。武士役の桐生との掛け合いもコミカルで、将来が楽しみな「女優」である。
 一休さんと新右衛門のてんやわんやの珍道中であるが、脇を固める劇団員の演技も確かだ。
 だから、安心して物語に入っていける。
 「人はいつか大好きな人たちとこの世でお別れせんとあきません。せやから、大好きな人とはずっと一緒におる方がええですよ」。一休さんの一言は、今のコロナ禍での人の在り方をやさしく諭してくれた。 間違いなく、扇治郎の代表作になるに違いない。今後のシリーズ化を期待したい。

 第二幕は、『愛の小荷物』(写真左、©松竹)。主役は、松竹新喜劇出演が11回目の久本雅美。舞台は、大阪南港の待合ロビー。『愛の小荷物』左から曽我廼家文童、久本雅美.jpg女房に逃げられた小荷物係の赤ん坊をめぐって、おつねと兄の平次郎のおせっかいが繰り広げる物語。久本雅美と曽我廼家文童との掛け合いはさすがで息がぴったり。また、それぞれの登場人物が自然で、実際にどこにでもあるような、なにわの人情味あふれた、温かい物語。作品は昭和10年の松竹家庭劇の作品だそうだが、古さは全く感じない。人との距離を置かなければならない今、一番必要な「情」と「愛」。『大阪の 家族はつらいよ』に関わった・わかぎゑふの演出によって、「世話焼き」が、愛の小荷物=赤ん坊を救うという胸に迫る物語となった。
 松竹新喜劇の良さは、なんといっても作品の確かさと、大げさでない自然な演技、そして、体に染み渡る柔らかな大阪言葉。笑って、泣いて、ほろっと感動して。人生も捨てたものじゃないな、と思わせてくれる。観た後、心の汗をかいて、温かくなって劇場を後にできる。そのために何度も何度も劇場に行きたくなる。これこそが「喜劇」だろう。
 劇場正面には、京都芸術大学の学生による一文字看板が彩られた。看板に使用したモチーフや文様には一つ一つ意味があり、今回は特に「厄除け」の願いが込められていた。さらにこの公演は、「文化庁子供文化芸術支援事業」の対象公演で、18歳以下は観劇無料だったので、子供たちの観客も多かった。7月18日に無事に千穐楽を迎え、翌日に梅雨が明けた。夏の京都で笑って泣いて、心と体の免疫力を大いに増やすことができた日々だった。

 次回、松竹新喜劇の南座公演は、来年1月「初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演」(久本雅美出演決定)。その前に本拠地大阪・松竹座で、11月16日㈯~21日㈰「松竹新喜劇 錦秋公演」が十八番の人気狂言を揃えて上演する(「文化庁子供文化芸術支援事業」の対象公演)。泣き笑いの人情喜劇で、コロナ禍の混沌とした日常を吹き飛ばしていただきたい。
 お問い合わせは、京都南座TEL075-561-1155、大阪松竹座TEL06-6214-2211 まで。