「アベノミクスの行方」講演録(2019/11/06)

会員の寄稿

令和の夏、スーパーレビューと超歌舞伎を古都で楽しむ
フリーアナウンサー 坂口智美様

 「真夏の南座」星座のことではない。歌舞伎発生から400年を迎え昨年末リニューアルされた京都・南座のことである。今夏の話題を2つ紹介しよう。

 今年の夏は暑かった、特に京都は!7月、その京都の真ん中で華やかなレビューが4年ぶりに開催された。OSK日本歌劇団の「OSK SAKURA REVUE /NIGHT」が13日から25日まで。ちょうど祇園祭の期間中、劇場の外も内も大勢の人で賑わった。

「OSK SAKURA REVUE」

 第1部は、泉鏡花の「海神別荘」を歌劇にしたもの。大正時代の旧仮名遣いの戯曲をどう展開するのか、あの独特の鏡花の世界を舞台で表現できるのか、とても興味があり、少し心配でもあった。が、観劇して、すっかり魅了されてしまった。 1.jpg

 開演前から潮騒の音、美しい舞台セットと心地良い音楽。海の世界の住人達(魚たち、僧都・楊琳)の楽しい踊り。花道を美女が海馬に揺られてくる光景は、ディズニーかシルクドソレイユの世界のようにファンタジックで美しく、観客を深く涼しい海の世界へ一気に引き込む。そして何より、美しい台詞!「あなた」「おくたびれでございましょう」「―なさいまし」「いくひさしく」言葉を生業とし、正しく美しい日本語の普及を目指している私にとっては、衝撃的な舞台だった。

 主役の桐生麻耶(きりゅう・あさや)は、抜群の存在感で海の世界を統べる公子の威厳と青年の純朴さを的確に表現、人間の欲深さや愚かさを憂い、憎む。役に命を吹き込む桐生ならではのたたずまい。そして、桐生に丁々発止と対峙する陸の美女・城月れいの自然な演技も物語を現実的にした。女房役・白藤麗華のたおやかで気品あふれる物腰と言葉、黒潮騎士団長・愛瀬光の正義のまなざし、博士・虹架路万のコミカルさ、粗野な赤鮫・華月奏、美女の化身の白蛇・麗羅リコ、と役者にも事欠かなかった。

 今回付け加えられた、冷酷な公子の涙で美女がその愛に気づき公子の心に寄り添う場面は、価値観の違いが解け合った瞬間で、魂の踊りとともに心を打った。違う世界に住む者たちの融合は、混沌とした現代に一番必要なことではないだろうか。この世の中に相いれないものは無数に存在する。男女も言わずもがな。この世の価値は自分のもの、人間のあるべき姿や死を前にして永遠の愛に行きつく・・・海のように深いテーマを見事に歌劇に昇華した舞台だった。是非、再演を望みたい。

いつかは海へ 源の海へ
海から生まれし すべては海へ
愛も 憎しみも
力も夢も 涙となって流れて消える
すべては海へ
 

 第2部は、新橋演舞場、大阪松竹座で大好評を得たレビューショー『STORM of APPLAUSE』。桐生麻耶の新トップスターお披露目と新たなOSKの門出を祝う絢爛豪華なステージで、京都では一層躍動感が増し、SUPER『STORM of APPLAUSE』となった。

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 各場面、全てに嵐のような喝采が送られた。特に8分間踊り続ける「Fate Storm」では、毎回「ブラボー!」の嵐。あっという間の60分。「桐生麻耶という大きなお椀の中で、コシヒカリのようなお米が一粒一粒キラキラ輝いて、最後の一口まで、本当に美味しく頂けた」と、歌劇出身の女優でエンターティナーの未央一(みお・はじめ)氏をして言わしめた。トップスターとして創立97周年の劇団をけん引し、唯一無二の男役・桐生麻耶がここにいる。

 3都市で26日間公演され、ダンスのOSKの代表作となったこのレビュー、何度でも再演してほしい名作である。

「OSK SAKURA NIGHT」

 南座初の試みであるナイトレビューは12日間。『歌劇 海神別荘』の作・演出の広井王子の書下ろし新作レビュー『夢見ていよう』、演出・振付は同じく麻咲梨乃。大ヒットゲーム作品「サクラ大戦」の声優陣とOSK劇団員の夢の競演だ。毎回幕開き前で、南座の掃除人に就任した?広井王子氏が、客席とのコミュニケーションを取り、舞台への期待感を持たせる楽しさ。オープニングは、OSKお得意のダンスナンバー。時は架空の太正時代、帝国歌劇団とOSK日本歌劇団のコラボレーションが実現するという設定で物語は進む。

 真宮寺さくら役の横山智佐をはじめとした声優陣と男性俳優、日立昇役の楊琳(やん・りん)率いるOSKとのミュージカル仕立ての作品は違和感なく、新しい試みは成功と言えるだろう。ラストは桜パラソルを回して「桜咲く国」の大合唱、「敬礼!」で銀テープが飛び、サクラ大戦ファンとOSKファンも一体となって、熱い舞台になった。

 7月の南座は、昼も夜もOSK三昧で舞台を堪能できた贅沢な毎日であった。「京都の夏の暑さは格別!」と言いながらも11日間通ってしまった。元気の素をたくさんもらった。

3.jpg 「八月南座超歌舞伎」

 そして8月は「八月南座超歌舞伎」。2016年から「ニコニコ超会議」内で日本の伝統芸能を代表する歌舞伎と通信技術の最新テクノロジーを融合させた公演で、今年も幕張メッセで2日間行われ大盛況だった。話題の公演が京都・南座に1か月やってくるということで、バーチャルに疎い私にとって幕張メッセは敷居が高いが、行き慣れた南座なら...と観劇した。おなじみの着物姿の歌舞伎ファンに加え、夏休みのせいか子供たちや浴衣姿の外国人も多く満席だった。

 まずは、中村蝶紫と澤村國矢による「超歌舞伎のみかた」。歌舞伎ならではの役柄、化粧、花道、セリなどの舞台演出、屋号での声掛けである大向う(おおむこう)の解説があり、初心者にも親切だ。ちなみに、中村獅童は‟萬屋"、初音ミクは‟初音屋"、澤村國矢は‟紀伊国屋" 、NTTは‟電話屋"という具合だ。

 第2部は今回の為に書き下ろされた新作舞踊『お国山三 當世流歌舞伎踊(いまようかぶきおどり)』。出雲のお国に扮した初音ミクは映像の中とは思えぬ瞬きや立ち居振る舞いで、まさにこの場に実在しているバーチャルアイドルだ。恋人役の中村獅童や男歌舞伎、女歌舞伎との共演もあでやかで全く違和感がなかった。

 第3部は、『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』。古典歌舞伎の『義経千本桜』と初音ミクの代表曲「千本桜」の世界観が融合した、現代の歌舞伎作品である。佐藤忠信役の獅童、初音の前の蝶紫、悪役・青龍の國矢や俳優陣はおなじみの名演技だし、ミク演じる美玖姫は強く美しく艶っぽく、忠信との宙乗りでもお似合いの二人だった。

 「分身」や「変身」の術など物語を進める数々のデジタル映像はとても効果的で、観劇の大きな助けになっている。その一方で、アナログの最たる芸術・歌舞伎の奥深さも実感した。

 そして、通常の古典歌舞伎と大きく違ったのは、フェナーレの盛り上がり。1階から3階まで総立ちとなり、ペンライトが会場で輝きあふれ、灼熱のライヴ会場となった。私も14色に変化するペンライトを振り振り参加した。ふと、出雲のお国の時代もこのような観客参加型ではなかったか、と思った。

 今回は、本公演と澤村國矢が主演の『今昔饗宴千本桜』のみ上演するリミテッドバージョンがあり、こちらも大盛況で見ごたえがあった。

「お客様の笑顔が私たちの喜びであり、精進の源です」(桐生麻耶)
「伝統を守りつつ、革新を追求する」(中村獅童)

 歌劇と歌舞伎とジャンルは違えども、大きな感動と喜びと希望を与えた2つの舞台。暑い暑い京都の夏に、体の中からエネルギーを発するスパイシーカレーのように、観客たちの心と体を健やかにした。

南座HP  https://www.shochiku.co.jp/play/theater/minamiza/
OSK日本歌劇団HP http://www.osk-revue.com/