中之島プレミアムトーク=2019年5月31日開催

会員の寄稿

『耳よりな はなし』
上方文化評論家 福井栄一様

 3月3日が記念日「耳の日」とされたことには、理由がある。

 第1に、俗耳に入りやすいのが、「33」=「みみ」という語呂合わせ。しかも、数字の3の形状は、耳に似ている。

 第2に、聴覚機器の研究に専心して電話を発明したグラハム・ベルの誕生日であること(1847年3月3日)。

 第3に、家庭教師アン・サリバン・メーシーが有名なヘレン・ケラーに献身的な指導を始めた日であること(1887年3月3日)。

 偉人たちの劇的な生涯に想いを馳せつつ、耳に関する話柄をいくつか開陳したい。

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 そもそも、「みみ」の語源は何か。

 人間には耳が左右一対あり(画家ゴッホもあの日まではそうだった)、互いによく似ているから「似似(にに)」。それが転訛して「みみ」になったという説がある。

 また、耳には骨がなく肉(み)ばかりであるから「肉肉(みみ)」と呼ばれた、という説も。但し、揚げ足をとるようだが、実際の耳には軟骨があり、中耳には耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる3種類の骨がある(つち骨・きぬた骨・あぶみ骨)。

 さて、耳は精妙な器官であるから、変調をきたすことが多い。耳医者がいなかった昔、不幸にも耳を患った人は、自分で対処するほかなかった。そこで先人たちの智慧も借りながら編み出されたのが、各種の民間療法・対症療法である。代表的なものを挙げるが、医学的な根拠や効果のほどは保証しない。

 外耳炎の場合。数滴のヒマシ油を耳の中へ垂らす、ドクダミを煎じて飲む。

 中耳炎の場合。ゴボウ汁ないしユキノシタの葉の汁を数滴耳の中へ垂らす。

 内耳の異常で体がふらつく場合。朝鮮人参を服用する。

 耳鳴りがする場合、難聴の場合。黒豆や栗を毎日食べる、高血圧が原因と考えられるならば昆布や椎茸を努めて食べる。

 そういえば、近年、加齢に伴う難聴(聴覚障がい)で悩む中高年が増えている。世界保健機関(WHO)から最近発表された報告によれば、現在、聴覚障がいを抱える人は全世界で約4億7千万人おり、2030年には約6億3千万人に達すると予想されている。無論、これら全員が高齢者というわけではないが、相当な比率を占めていることはまちがいなかろう。

 日本で高齢者問題が語られる時、論点はややもすると「年金」や「介護」に収斂しがちだ。しかし、コミュニケーションの質や認知症との関連などを勘案すると、中高年の「聞こえ」の問題も決して看過できない。WHOの貴重な問題提起を「右の耳から左の耳」と聞き流さぬようにしたい。

(完)