ナビゲーターで狂言師の茂山 千之丞さん(右)と第22回ゲストで喜劇俳優の大村 崑さん

新編 上方風流

第22回 狂言師 茂山 千之丞(35)×喜劇俳優 大村 崑(87)(2019年2月4日夕刊掲載)

 1963年、上方芸能の20~30代の演じ手が同人誌「上方風流(ぶり)」をつくった。その最終号が出てから約半世紀。「新編 上方風流」では、同人の祖父をもつ狂言師・茂山千之丞(せんのじょう)をナビゲーターに、上方芸能のあり方を見つめてきた。22回目は、「上方風流」の同人だった喜劇界のレジェンド、俳優の大村崑(こん)を招いた。

大村崑(大)  (上方風流の表紙を見て)懐かしい名前やなあ!

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茂山千之丞(千)  そうですよね。(発行から)だいたい60年経ってるそうなんです。

  ああ、そうか! へえ。何回発行したんやっけ。

  8号が最後ですね。

  そんな短かったんだ......。これは何の会って言ったらね、遊ぶ会なんですよ(笑)。

  はい(笑)。(演出家の)山田庄一さんがお声がけされたように伺ってますけども。

  僕は確か、桂米朝さんに呼んでもらったと思うんですよ。「あんた、ここ入れへんか」と。酒も飲まんのに一緒に交ぜてもろて。ああいう青春って、やってきてよかったなあ。

  何の話をされるんですか、みなさん集まられて。

  話を引っ張っていくのは米朝さんや。あんたんとこのおじいさん(二世茂山千之丞)もそうやし。酒と女の話とか、その時のニュースの話とか。いまやったら大坂なおみさんの話なんかは花が咲いてさ、お祝いしようか、なんてなるわけ。誰が持っていこうか、とかね。

  じゃあ、芸の話はあんまりされないんですね。

  同じ志を持つ舞台人だけど、みな仕事が違うわけやから。中村扇雀(せんじゃく)(坂田藤十郎)さんが来ても歌舞伎の話はしないからね。吉村雄輝さんでも、僕、この人何してる人?って聞いたわ(笑)。そしたら吉村流っていう舞踊の名家やと。そうか紹介してよ、なんて言いながら親しくなって。ずっと後で、ピーター(池畑慎之介)のお父さんやって聞いた。

  まあ、そうでしょうねえ。自分から池畑慎之介のパパです、とはおっしゃらないと思います(笑)。

  今考えたら、僕は芸人で成長の過程のときにいたんやね。もっと仕事の難しさとか楽しさとか、聞いときゃよかったなと思うけど、みんな息抜きに集まってたとこもありましたからね。

  始まったときは全員40歳以下なんです。(最終号の)8号が出た頃には、なんとなくみなさん忙しくなって。

  懐かしい話、いっぱいあるんだよ。昔ね、スターものまね大合戦とかあったでしょ。それのテスト版で僕が優勝して。

 おおー、そうですか。

 それで世界一周のタダ券もらって。子どもは両親に預けて、芸能界も忘れて、夫婦で32日間、地球を一気に回るわけです。タダで。

  当時は飛行機に乗るのもすごい高いんですよね。

 そうそう。ほんで、雄輝さんのところで送別会してもらって。千之丞さんが音頭取って、みんなで金出しおうてお祝いしようって。餞別(せんべつ)ももらって。でもラスベガスでばくちして、持ってたお金を全部使っちゃった。最後のハワイの分まで使ってもうて、女房が「どうすんの」って。ほんなら、質屋がいっぱいあるんですよ。そこに時計を売りにいってさ。

  あー、なるほど。

  で、ちょっと金を作ってハワイ入った途端、またすっからかんよ。そしたらホテルのフロント係に、こういうのが届いてますって言うて、米朝さんの名前が書かれた封筒を渡されてね。千之丞さんいわく「お前はばくち好きやから、すっからかんになって今来てるやろ」って。「これを使うて帰ってこい」って、10万円。

  おお......。

  そんな優しいグループですよ、このグループは。

  すごいですね。お互いに見抜かれていると言いますか。

 いま振り返ったら、ものすごい結束してたね。

  一昨年の4月から、この対談で米朝師匠の孫弟子の桂吉坊(きちぼう)さんとか、藤山寛美(かんび)さんの孫の扇治郎さんとか、同じ孫世代の方とお話をしていまして。そこで出るのが、やっぱり今はみなさんのような横のつながりがなかなかない、と。

kon.jpg   僕も狂言とか文楽とか、古典芸術とはご縁がなかったんですよ。よその芸に疎かった。でも「上方風流」で友達になって舞台を見にいったりとか、楽屋に行ったり一緒にメシ食ったりして、交流が出来たんです。今考えたら、泣きも笑いもたくさんもらった。友情というかね。(能楽囃子方〈はやしかた〉の)大倉長十郎さんもそうやし、(文楽の)竹本織太夫(竹本源太夫)さんも大きな声で「崑ちゃん、よう頑張ってるなあ」って。

  そうなんですね。

  ほとんどの人が勲章もろて死んでもうて、40までしか生きられないって言われた僕が、今年米寿。

  まだまだそんな風には見えませんけどもね。ライザップに行ってらっしゃるんでしょう? 信じられないです(笑)。

 トレーナーがすごいのよ。僕みたいな怒り症の男でも怒らさんようにもっていく。

  うまいこと(笑)。

  スクワットもね、いまは20回出来るから。「あと1回です!」言われたら、不思議と力が出るんですよ。やったら「ナイストレーニング!」て(笑)。

 すごい褒めてくださるわけですね(笑)。うちの祖父は9年前に亡くなったんですけど、87歳でした。

  一種独特の芸風がね、好きやった。本当に大きな声が出るしね。

 本人は百歳まで生きるつもりやったらしいですけどね。大村先生は去年、大河ドラマ(西郷どん)にお出になって。

  あれはね、ドッキリカメラかと思って行ったら、本当で。西郷隆盛のおじいさんの役って言うから、え?!って。

  そうだったんですね。狂言も喜劇の一つですけど、先生はいまの喜劇や笑いって、どうご覧になってます?

  寛美さんの芝居を見てもわかるけど、笑いと泣きは背中同士にある。散々笑ってても、一言で泣くじゃないですか。で、泣いて泣いて泣いて、一言でまた笑いに変わる。そういう特殊なものを出来る喜劇人は、俳優でなかったらあかんわけですよ。

 なるほど。

 だけど今バラエティーなんかでやってる人は、笑わし屋さんって言うのかな。僕から言わしたら。同じにしてもろたら困るんですよ。

 劇ではないということですよね。

 喜劇の中に何があるかって言ったら、情があるんです。優しさとか面白さとか、情けないこととか、そういう道徳みたいなものが喜劇にはある。あなたたちのやる芸もそうですよ。

 そうですね。

 今、バラエティーでやってるのを見たら、世界が違うなあと思います。棚田みたいなとこに乗って一つの話を男か女かどちらがええか、みたいな話をしたり。ようしゃべるやつが前にいて、ちょっとしゃべるやつが後ろにいて、一番後ろはたまに振ってもろうてしゃべるだけで。リアクションだけワーッとか入れて。今のバラエティーは座長みたいな人にヨイショして。そういうのはあんまり好きじゃない。寛美さんはボスやけども、あの一座におる人はみな喜劇人ですよ。サッカーと一緒で、あの人がゴールするとこまで、周りはちゃんと補佐して作っていくわけですよ。そのためには役者が全部、喜劇を理解してなかったらあかんのです。

  なるほど、ありがとうございます。

大   「新編 上方風流」でも何か作ったら? 舞台で商いをしている人たちを集めて。やるべきやと思うよ。そしたらまた40、50年経った時に、下の世代が「新・新・上方風流」をやるよ。

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狂言師・茂山千之丞(35)
   1983年生まれ。86年、本名の茂山童司(どうじ)で初舞台。2018年、三世茂山千之丞を襲名。自作の新作狂言を上演する「マリコウジ」、自作コントの公演「ヒャクマンベン」を主宰。
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喜劇俳優・大村崑(87)
   1957年、大阪・北野劇場でコメディアンデビュー。出演作にテレビ「やりくりアパート」「とんま天狗(てんぐ)」「赤い霊柩車(れいきゅうしゃ)」「西郷(せご)どん」など。オロナミンCのCMで一世を風靡(ふうび)した。

上方風流発行人 山田庄一さん 「人生最大の仕事になった」

 上方風流の創刊号が世に出たのは1963年。発行者の山田庄一は冒頭の「“いいだしべえ”の記」で、こうつづっている。
 「上方文化の衰退が叫ばれ、復興が望まれてすでに久しいものですが、もはや現状は、単に歌舞伎とか、文楽という個々のジャンルだけでは、どうにもならない段階まで来てしまった様です。(中略)生粋の上方育ちが集まって、いいたいこと、書きたいことを発表しているうちに、“明日の上方文化”の方向を見つけることができれば」  山田は1925年、大阪・船場に生まれた。家にはごひいきの歌舞伎役者が出入りするなど、幼い頃から上方の芸能に触れて育ち、交友関係も広かった。刊行当時は毎日新聞で記者をしていた。「学芸部で劇評を書きたかったがなかなかできず、千之丞や米朝に何かできないかと相談したのがきっかけ」と振り返る。
 3人で方々に声をかけてできた創刊号は40歳未満の24人が参加。各界で評判を呼び、2号以降も様々な人間が参加した。だが、山田が東京の国立劇場開場の創立メンバーに加わるため新聞社を辞めたことや、メンバーが忙しくなってきたことから8号を最後に「休刊」状態となった。
 「上方風流のメンバーからこんなにたくさん文化勲章受章者や人間国宝が出るとは思わなかった。人生最大の仕事になった」と喜ぶ。「今はみな忙しいから難しいかもしれないが、孫の世代にも受け継いでほしいね」

◆「上方風流」創刊号の顔ぶれ
【能楽】片山慶次郎、山本真義、大倉長十郎
【文楽】竹本住太夫、竹本源太夫、鶴澤寛治、吉田文雀、吉田簑助
【狂言】茂山千之丞
【演劇】坂田藤十郎、藤山寛美、石浜祐次郎、大村崑
【大衆芸能】桂米朝、夢路いとし、喜味こいし
【舞踊】吉村雄輝、山村糸、山村楽正、花柳有洸、飛鳥峯王
【評論】山田庄一、権藤芳一、嘉納吉郎