
ナビゲーターで狂言師の茂山童司さん(右)と、第8回のゲストで浪曲師の真山隼人さん
上方の伝統芸能を担う20~30代の演じ手がジャンルを超えて集い、半世紀前に伝説の同人誌「上方風流」を編んだ。その一人、狂言師茂山千之丞の孫、茂山童司が案内する対談企画「新編 上方風流」。第8回は同人には参加していなかった浪曲に新たに焦点を当て、若手浪曲師の真山隼人を招いて語り合った。
茂山童司(童) この対談企画に登場された方のなかで最年少ですが、「上方風流」ってご存じですか?
真山隼人(隼) 1冊持ってたんです。
童 おお、それは。
隼 浪曲界に入る前から演芸が好きやったんで色々調べてて。東京・神田の古本屋で1冊5千円で出てたので、おっ、「上方風流」じゃないか!と。中学生か高校生のころですから、なけなしの小遣いで1冊買って。
童 いるんだなあ、そういう人が(笑)
隼 前回の木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんとの対談を読んでも、小学校3年で古典芸能に興味を持たれたと。なんか、同じような方なんやなって。
童 浪曲界に入ったきっかけは?
隼 ラジオですね。落語や浪曲をたまたま聴いて、演芸って面白いなと。
童 自分で発掘して。
隼 発掘というか、テレビをあんまり見る家庭じゃなかったので、ラジオでもと聴き始めたのがきっかけですね。
童 三重県鈴鹿市のご出身ですが、生で浪曲を聴く機会はあったんですか?
隼 名古屋で年1回、浪曲大会があったんです。朝から晩まで浪曲をする祭典だったんですけど、平日だったので「学校休ませてくれ」「あかん」と、親とケンカしながらこっそり見に行きましたね。
童 弟子入りされたのが15歳。ということは高校に入られた年ですよね?
隼 はい。中学を卒業するときに男は15歳で何かせなあかんっていう、しょうもない気持ちになっちゃいまして。卒業式の日に師匠に手紙を送ったんです。高校卒業までは三重から大阪の師匠宅に通いました。最初は、オーケストラの音源に合わせて浪曲をやってたんです。いまは三味線伴奏に変えています。
童 浪曲はほかの大衆芸能や古典芸能に比べると遍歴が劇的ですよね。明治か大正にはレコードが何十万枚も売れて、すっごい流行ってたんですよね。
隼 はい。ほかの芸能はわりと地道に、それでも不動の地位を築き上げてきてるんやと思うんですけど、浪曲って何か成り金みたいなものなんで(笑)。ドーンと売れたら、何でも利用してやるんだっていう集団なんですよね。
童 伝統芸能よりも、いまで言う芸能界みたいな感じやったんでしょうね。
隼 そうですね。もともとは義太夫や祭文を採り入れて、面白おかしくというか、新しい義太夫みたいな形でやってたと思うんです。
童 初めてやった人ってわかってるんですか?
隼 大阪の浪花伊助さんが始めたので「浪花節」。その後、桃中軒雲右衛門という人がテーブルのセットを組んでやり始めて、いまの形になったのが明治の中頃からですね。
童 ああ、なるほど。でも珍しいですよね。高いテーブルの前で立ってやるっていうのは、ほかに類を見ないじゃないですか。落語や講談みたいに座ってやるのに比べて、立ってていいことはあるんですか?
隼 声は出しやすいのかなと思いますよね。こうガーッといける、吐き出せるという。義太夫とかでもちょっと浮かして。
童 そうですね。浮かしてやってますもんね。
上方風流の創刊号が世に出たのは1963年。発行者の山田庄一は冒頭の「“いいだしべえ”の記」で、こうつづっている。
「上方文化の衰退が叫ばれ、復興が望まれてすでに久しいものですが、もはや現状は、単に歌舞伎とか、文楽という個々のジャンルだけでは、どうにもならない段階まで来てしまった様です。(中略)生粋の上方育ちが集まって、いいたいこと、書きたいことを発表しているうちに、“明日の上方文化”の方向を見つけることができれば」
山田は1925年、大阪・船場に生まれた。家にはごひいきの歌舞伎役者が出入りするなど、幼い頃から上方の芸能に触れて育ち、交友関係も広かった。刊行当時は毎日新聞で記者をしていた。「学芸部で劇評を書きたかったがなかなかできず、千之丞や米朝に何かできないかと相談したのがきっかけ」と振り返る。
3人で方々に声をかけてできた創刊号は40歳未満の24人が参加。各界で評判を呼び、2号以降も様々な人間が参加した。だが、山田が東京の国立劇場開場の創立メンバーに加わるため新聞社を辞めたことや、メンバーが忙しくなってきたことから8号を最後に「休刊」状態となった。
「上方風流のメンバーからこんなにたくさん文化勲章受章者や人間国宝が出るとは思わなかった。人生最大の仕事になった」と喜ぶ。「今はみな忙しいから難しいかもしれないが、孫の世代にも受け継いでほしいね」
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