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第1回中之島プレミアムトーク 河西秀哉氏講演 (抄録)

 関西スクエアはタイムリーなテーマについて考える企画「中之島プレミアムトーク」を今年度から開催する。その第一回講師は名古屋大学大学院准教授の河西秀哉氏で、演題は「平成の先の皇室へ その現状と課題」。5月31日に開かれたプレミアムトークには533人の応募があり、抽選で選ばれた100人が参加した。

(以下は講演抄録)


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 被災地を訪ね歩き、戦争の慰霊の旅を続けた明仁天皇と美智子皇后。「平成流」とされる天皇の仕事について、明仁天皇は皇太子時代から構想していた、と河西氏は指摘した。


 明仁皇太子は1986年5月、「天皇は政治を動かすという立場になく、伝統的に国民と苦楽をともにするという精神的立場に立っています」と語った。


 河西氏はその言葉を引用し、「明仁皇太子はご成婚やミッチーブームで人気がわっと出て、そこから落とされた。いろいろな批判を浴びるなかで、自分とは何か、自分は何をやらなければならないかを考えたとき、国民と苦楽をともにすることが必要と考えるようになったのではないか。この国民と苦楽をともにするということが「平成流」の柱だった」と語った。


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 「平成流」は最初から国民に支持されたのか。NHKによる「国民の意識」調査によると、天皇に対する意識は昭和から平成初期にかけて「尊敬」が減少傾向だった。しかし、2008年ごろから「尊敬」が増加に転じ、2018年には41%で過去最高となった。河西氏は「明仁天皇と美智子皇后による被災地訪問や慰霊の旅が浸透していく中で、評価がここ10年でぐっと伸びてきている」と語った。


 明仁天皇は2016年8月、退位の意向を表明。象徴としてのお務めについて、「日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を日々、模索し続けてきた。いかに社会に内在し、人々の期待にこたえていくかを考えてきた」と述べた。河西氏はこの「おことば」を取り上げ、「明仁天皇が訪ねたのは、被災地、過疎化した地域、沖縄など忘れさられたようなところ、発展から取り残され、こぼれ落ちそうな場所だ。格差がどんどん広がっていく中で天皇が行くことで、忘れさられそうな人々は『天皇は私たちに目を向けてくれている』と慰められ、不満のエネルギーが和らぐ側面がある」


 さらに、河西氏は「ご本人が意図しているかどうかは別として、本来、政治がやらなければならない格差の是正に向き合い、日本人としてのまとまりとしてゆるやかに統合する機能を果たしてきた。その機能を減少させないための退位だった」と解説した。


 「平成流」は令和時代に引き継がれるのか。河西氏は「今上天皇は2016年の皇太子時代、象徴天皇について『国民と苦楽を共にしながら、望ましい在り方を求め続けることが大切』と父親である明仁天皇の言葉をそのまま語っている。基本的には「平成流」を継承するでしょう」と述べた。


 今上天皇は即位後朝礼の儀の「おことば」で「上皇陛下は国民と苦楽を共にされながら、その強い御心をご自身のお姿でお示しになりつつ、一つ一つのお務めに真摯に取り組んでこられました。上皇陛下がお示しになった象徴としてのお姿に心からの敬意と感謝を申しあげます」と語った。河西氏はこの言葉を取り上げ、「被災地に出かけ、膝をついて、国民と直接語りあったその姿をたいへん評価しています。『天皇は祈っていればいい』といった保守派に対して、強烈なアンサーです。わたしは父親の姿を継ぐのだという強い意志が読み取れます」と解説した。


 「平成流」を継承するとみられる今上天皇。河西氏は「令和流」の新しい可能性について、こう述べた。「今上天皇は大学時代、日本中世の水運を勉強し、その後も研究を続けてきた。今年の誕生日記者会見では『長年、携わってきた水問題についても、防災など国民生活の安定と発展について考えを巡らせることもできると思います』と語っている。令和の新しい仕事として、やりたいということです」


 「今上天皇は同じ記者会見で『雅子自身もいろいろ海外での経験もありますし、このグローバル化の時代にあって、国際的な取り組みなど本人だからできるような取り組みが今後出てくると思います』と語った。今上天皇のライフワークである水問題は国際問題でもある。雅子さんの健康に配慮しつつ、外務省でのキャリアをいかして国際問題をやれる皇后であることを言っています」


 さらに、河西氏は2018年12月20日の明仁天皇誕生日記者会見の言葉を紹介。明仁天皇はこう語った。「近年、多くの外国人が我が国で働くようになりました。外国からの訪問者も年々増えています。各国から我が国に来て、仕事をする人々を、社会の一員として私ども皆が温かく迎えることができるよう願っています。また、外国からの訪問者も年々増えています。この訪問者が我が国を自らの目で見て理解を深め、各国との親善友好関係が進むことを願っています」


 河西氏は明仁天皇の言葉をこう解釈した。「前の天皇は最後の最後に、現在進行している日本社会におけるグローバル化に対応しなければならないという宿題を課し、次の天皇・皇后に託したのではないでしょうか」


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 河西氏と会場参加者との質疑応答では、皇位継承、上皇・上皇后の仕事、天皇制と憲法などの問題などが話題になった。


            
((関西スクエア事務局長 湯浅 好範)