会員の寄稿

『ホタルもつらいよ』
 上方文化評論家 福井栄一 様

ゲンジボタルの飛び交う清流が、激減している。

水質汚濁に加え、河川整備事業の影響も大きい。護岸工事によって川岸をコンクリートで固め、防犯上の理由から街灯を設置する。これら二つの施策が揃いも揃って、ホタルの繁殖や生育を困難ならしめているのだ。

まず前者によって、川岸の草叢や湿地は消失するから、ホタルの幼虫や蛹の生育は絶望的となる。次に後者によって川岸の夜間照度が上がると、繁殖の妨げとなる。ホタルが発光するのは、専ら交尾の相手と交信し、誘引するためだから、川岸が常時明るいと、交尾活動に支障が出る。

ところで、お馴染みのゲンジボタルの点滅時間には地域差があるらしい。ある研究によれば、東日本では四秒に一回、西日本では二秒に一回光るという。つまり、西日本のゲンジボタルの方が「いらち」なわけだ。飛行しながら発光するのはオスで、大概のメスは川岸で居ながらにして妖しく発光し、オスを招く。

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さて、日本史上は源氏に敗れ、西海の藻屑と消えた平家だが、ホタルの世界では様相が異なる。ヘイケボタルは、ゲンジボタルに比して、体こそ小さいが、ふてぶてしい。生態が逞しいのである。例えば、ゲンジボタルは清流にしか棲めないが、ヘイケボタルは、川の水が少々汚れていても平気である。さらには、水田や沼池の如く、流水でないスポットでも、生息可能である。

ちなみに、ヘイケボタルの発光は、ゲンジボタルよりも短周期で、乗用車のハザードランプの点滅に譬えられる。実際、夜中に生息地へ車で乗りつけて件のランプを点滅させ、勘違いして集まって来たヘイケボタルを乱獲する不心得者が、多いらしい。

なお、源平合戦には高名な公達・武将たちと並んで、多くの姫君が登場するが、それにあやかってか、ホタルの世界にはヒメボタルが居る。体長はヘイケボタルよりも更に小さい。発光しながら飛び廻るさまは弱々しく、懐中電灯で照らされると光の筋の外へさっと逃げてしまう。姫君だけに、恥ずかしがり屋なのだろうか。夜風が強い日は飛ぶのを止めるという習性も、お姫様らしくて面白い。

ともあれ、ホタルは初夏の風物詩として人気が高い。生息地を擁する自治体にとっては、貴重な観光資源でもある。そこで、絶滅危惧地では、「往時の蛍合戦よ、再び」とばかりに、他地域のホタルの放流・移入がしばしば行われてきている。これにより、確かに個体数は増えようが、手放しでは喜べない。生物学的系統の異なる個体を大量に放つことは、同地の種の遺伝子汚染に繋がるからだ。保護・繁殖は図りたいが、遺伝子攪乱は避けたい。

環境破壊でホタルもつらいが、ホタルと向き合う人間も、これまたつらいところなのだ。

(完)