ナビゲーターで狂言師の茂山 千之丞さん(右)と第21回ゲストで元月組トップスターの龍 真咲さん

新編 上方風流

第21回 狂言師 茂山 千之丞(35)×元月組トップスター 龍 真咲(2019年1月7日夕刊掲載)

 昨年12月に祖父の名跡を襲名した狂言師の茂山千之丞(せんのじょう)をナビゲーターに、上方芸能のいまを見つめる対談企画「新編 上方風流(ぶり)」。21回目は宝塚歌劇団の元月組トップスター、龍真咲(りゅう・まさき)をゲストに迎えた。

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茂山千之丞(千) 宝塚にはどういう理由でお入りになったんですか。

龍真咲(龍) 歌をずっと習っていたので、母の友人から勧められて。で、公演を見て、ファンになって、帰りの電車では「入りたい!」って言っていましたね。

 音楽学校は2年でしたっけ。卒業されて、歌劇団に入るのに試験はないんですか。

 ラストに(順位を決める)卒業試験というのはあります。宝塚って成績順なんですよ、何をするのも。入団しても1、3、5年目に試験があって、5年目の試験が最後なので、そこでもう奮起ですよね。

 トップスターさんは、5年目の試験で1位の方々?

 皆が皆そうではないですね。

 さぞ競争は厳しいんだろうっていうイメージはあるんですけど、誰がトップスターになるか、どう決まるんでしょう。

 それはちょっとわからないです。でも、入学した時に掃除場所が決まるんですよ。1年目は自分たちで掃除をするんですけど、「スターになる掃除場所」っていうのがあるんです。昔、旧校舎の玄関に看板をかける係があって、その人はトップになるって。

 スターの輩出した掃除場所が(笑)。トップスターの時期、「自分」ってありました?

 ないですね。

 なんかそんな感じ。ずっと舞台ですよね。

 芸名の自分と本名の自分が、どこかいっつも混ざり合ってましたね。男役でも結局、心情や中身の部分は自分の中から引き出していかなきゃいけない。結局、中身は自分、外見は龍真咲みたいな感じだったのかなと思います。

 ああー。

 宝塚を辞めたとき、自分が何色が好きで、何の食べ物が好きで、どういう服装が好きかもわからなかったんです。自分ってどんなだったっけ、っていうのは最初に思いましたね。

 退団されて2年半。いまはもう、振り返れるようになりました?

 辞めた瞬間からですね。

 へえ、結構スパッとしてる。そんなにすぐ魔法が解けるもんなんですね。他の芝居はすぐに始められたんですか。

 そうですね。でも、切り替えはなかなかうまくいかなかったです。

 それ、お聞きしたかったんです。宝塚も100年続いていますし、一つの確立したジャンルじゃないですか。それをずっとやってこられて、いざ外の芝居にっていうときに、どう順応されたのかなって。

 いや、まだ順応できなくて。宝塚って、一つの名の下に舞台を作っていくんですよ。「先生」っていう人がまずいて、演出も歌の指導も、ダンスの振り付けも、先生たちの指示を仰ぐ。辞めてからは一つの集団に染まる必要がないっていうか、どういう風にその役を仕上げるか、自分との闘いでいいんだなって。それをプレゼンする方法が宝塚にいる間、自分の中にはなかったかなとは思います。

 お稽古の仕方、作品の作り方って、演出家さんそれぞれ全然違うと思うんですけども、指示をするより、わりと演じ手が出してくるのを待ってるみたいな方が多くないですか。

ryup.jpg  宝塚以外の方ってそうですよね。たとえば「どうなんですか、この時って?」と聞くと、「僕もわかんない」って(笑)。そう言われたとき、なんかちょっと安心しちゃって。宝塚は1時間35分の芝居に仕上げなきゃいけないから、理屈をわかってないと話が進まない。でも外はそうじゃなくて、芝居しながら話し合える空間を持たせてくれる。求められる要素が多い分、こっちが発するものはそれを上回らないといけない。エネルギーがすごくいるんだなって最近感じてますね。

 伝統芸能は、ある程度自分がきちんと考えてクオリティーをもっていれば、芸本来の力で舞台が出来上がっていく。どっちかと言うと、芸の型に依存するみたいなところがあります。宝塚ってどうですか。

 それはないですね。まして男役は、自分の理想像を全て形にしていけるんですよ。男は実在するけど、男役っていうのは唯一無二だから。例えば声を低くして、大股で歩いてっていう型はあるけれども、それだけには頼れないです。「男役10年」って言葉があるんですけど、自分の男役の理想像が見えてくるまでに10年はかかりました。

 いま、音楽活動もされてらっしゃいますよね。

 去年は自分のライブをやったり、ニコニコ動画やラジオもやらせてもらったり。いまは色んなことに挑戦するときなのかなって思ってます。

 与えられたもので十分やってきたやん、私には身についてるやん、とも言えるのに。

 正直、50%くらいはそうですね。けどやっぱり、何かをつくる時にベースの時点で分からなかったりうまく話せなかったりしたら、先々いつまでもついて回るんだろうなと思ったら、勉強しなきゃと。

 役者でもそこまで意識を高くもってる人って、そんなにいないですよ。

 私、1回目の人生、終わってきてるんですよ。宝塚の人って、トップになった瞬間とかいろんな瞬間から、辞める日のことを考えなきゃいけなくなるんですね。辞めるという到達点に向かうまで、どう生きるかが男役の龍真咲としての人生。すごい生き急いできたんですよ。年齢のこともあるし、7年目までに新人公演で主役をやれなきゃトップにはなれないというレールがあるから、まずそこにたどり着いて。

 それが終わると次って。

 はい。宝塚ではみんな切磋琢磨(せっさたくま)でやってるけど、辞めたらそれがないわけじゃないですか。自分でこういうことをしたい、ああなりたいとかイメージはあるけど、最終目標地点がない。最初はどうしようかと思った半面、周りを見たら、同世代の人たちはもっとその時々を楽しんでいる。みなさんまだ、なりたい自分への段階を踏んでらっしゃって、良い意味で長いスパンで考えてらっしゃる。そうやっていればいいんだなと、見てて勉強になりますね。

 それでいいんだって思いました?

 それでもいいんだって思いました。宝塚って、限られたときしかいられないし、限られた時間しか夢を見ることができない。スターとしていられるのは17年くらいで、辞めてから十何年先って見えないじゃないですか。自分がまだ芸能をやってるかも分からないし。

 短期的といっても20年ですもんね、苛烈(かれつ)な生活を。なんとなく想像は出来ますけど、自分のこととしては考えられないですね。

 いまは良い意味でも悪い意味でも、自分で選択していけるところがあるので、その時やりたいことを、どんどんやりたいと言った方がいいのかなと思って。

 将来的にはこっちに行くぞみたいなことは、まだ特に決めず、ですか。

 自分的には舞台と歌。自分自身のライブをやりたいですね。もちろん「これに出ます」っていうのもいいんですけど、自分が何かを作っていく喜びって、刺激されるところが全然違うんですよ。だからそういうのはやり続けていきたいなって。あと私、大阪のテレビに出てみたいんですよね。情報番組に。

 そんなん言わはったら、なんぼでも出れるんちゃうんですか? 元トップスターが出たがってるって言ったら。

 どうなんだろ。通販番組もやってみたいです。「これ、めっちゃいいですね!」って。

 へえー、意外。僕らはこの商売をやっている以上、京都から離れられないので、関西のテレビにお出になるのも心待ちにしています。

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狂言師・茂山千之丞(35)
   1983年生まれ。祖父の二世茂山千之丞、父の茂山あきらに師事。86年、本名の茂山童司(どうじ)で初舞台。新作狂言会「マリコウジ」や、自作コントの公演「ヒャクマンベン」を主宰する。
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元宝塚トップスター・龍真咲
   俳優、歌手。2001年に宝塚歌劇団入団。12年、月組トップスター就任。16年に退団。舞台やコンサートなどで精力的に活動している。

上方風流発行人 山田庄一さん 「人生最大の仕事になった」

 上方風流の創刊号が世に出たのは1963年。発行者の山田庄一は冒頭の「“いいだしべえ”の記」で、こうつづっている。
 「上方文化の衰退が叫ばれ、復興が望まれてすでに久しいものですが、もはや現状は、単に歌舞伎とか、文楽という個々のジャンルだけでは、どうにもならない段階まで来てしまった様です。(中略)生粋の上方育ちが集まって、いいたいこと、書きたいことを発表しているうちに、“明日の上方文化”の方向を見つけることができれば」  山田は1925年、大阪・船場に生まれた。家にはごひいきの歌舞伎役者が出入りするなど、幼い頃から上方の芸能に触れて育ち、交友関係も広かった。刊行当時は毎日新聞で記者をしていた。「学芸部で劇評を書きたかったがなかなかできず、千之丞や米朝に何かできないかと相談したのがきっかけ」と振り返る。
 3人で方々に声をかけてできた創刊号は40歳未満の24人が参加。各界で評判を呼び、2号以降も様々な人間が参加した。だが、山田が東京の国立劇場開場の創立メンバーに加わるため新聞社を辞めたことや、メンバーが忙しくなってきたことから8号を最後に「休刊」状態となった。
 「上方風流のメンバーからこんなにたくさん文化勲章受章者や人間国宝が出るとは思わなかった。人生最大の仕事になった」と喜ぶ。「今はみな忙しいから難しいかもしれないが、孫の世代にも受け継いでほしいね」

◆「上方風流」創刊号の顔ぶれ
【能楽】片山慶次郎、山本真義、大倉長十郎
【文楽】竹本住太夫、竹本源太夫、鶴澤寛治、吉田文雀、吉田簑助
【狂言】茂山千之丞
【演劇】坂田藤十郎、藤山寛美、石浜祐次郎、大村崑
【大衆芸能】桂米朝、夢路いとし、喜味こいし
【舞踊】吉村雄輝、山村糸、山村楽正、花柳有洸、飛鳥峯王
【評論】山田庄一、権藤芳一、嘉納吉郎