ナビゲーターで狂言師の茂山童司さん(中央)と、第5回のゲストで日本舞踊家の山村若さん(右)と侃さん

新編 上方風流

第5回 狂言師 茂山童司(34)×日本舞踊家 山村若(26)、侃(25)(2017年8月14日掲載)

 上方芸能の20~30代の演じ手がジャンルを超えて集い、伝説の同人誌「上方風流(ぶり)」をつくり上げた。その一人、狂言師茂山千之丞(せんのじょう)の孫、茂山童司をナビゲーターに古典芸能のいまを見つめる「新編 上方風流」。5回目は同じく同人だった上方舞山村流の山村糸(逝去後に五世家元を追贈)の孫、山村若(わか)、侃(かん)の兄弟を招き、シリーズ初の鼎談(ていだん)となった。

茂山童司(童) 糸先生はわりと積極的に「上方風流」に参加されていますね。

山村若(若) 現家元である父(山村友五郎)が19歳の時に46歳で亡くなったので、僕たちは会ったことがないんです。

 文章を読むとスパッとした感じの方やったのかなという印象を受けました。

山村侃(侃) 男の人みたいだったという話は聞いたことがあります(笑)

 代と二代の家元が男性で、糸先生まで3代女性が続いて、お父様からまた男性。狂言は基本的に男しかいないけれど、舞踊は男性も女性もいる。違いはありますか。

 男のもん(舞)、女のもんがあって、はじめは男性でも女のもんから稽古を始めます。

 そもそもお座敷で舞うことで発展した流儀だったので、大事な曲は女のもんが多くなるんです。

 なるほど。上方舞という言葉はよく耳にしますが、ほかの舞との違いって何でしょう。

 上方舞は劇場ではなく座敷で行われた舞ざらえや、芸妓(げいこ)さんのお座敷での舞が始まりでした。見ている人の前に料理が並んでいるかもしれないし、食べている人がいるかもしれない。なので、なるべくほこりが立たないように舞うんです。

 腰を低く据えて旋回運動するのが「舞」の特徴。関東の舞踊だと飛んだり跳ねたりという上下を使うものが多いですが、それが舞踊の「踊」にあたります。

 その上方舞の中でも山村流の特徴ってどこにあるのかな。

 初代はもともと歌舞伎の振付師をしていたんです。それもあって、上方舞の中でも歌舞伎舞踊の方に寄っている側面があるといいますか。うちの特徴でもある扇の使い方も、歌舞伎の舞台で映えるようなものを座敷舞に採り入れていったところがあると思います。

 歌舞伎の要素が入っているんですね。お流儀の人数って多いんですか。

 いえいえ。上方風流のころは多かったと聞いていますが、いまはみんな高齢になってきて、若い人もそんなに......。

 生活様式が変わって習い事する人も減っていますよね。

 やることも選択肢が増えましたし。

 でも突然、「和」に目覚めはる方たちって、いらっしゃるじゃないですか。

 いますね。上方風流を読んでて山田庄一先生が「最近の若い人たちは全然文楽の良さが分かっていない」って書いてて。でもいま文楽を見に行ったらお年を召した方が多い。一体どこで目覚めたんやろうって。

 そうですよね。かつての若い人たちですもんね。やはり潜在的に日本人だから日本のものをやってみなきゃって考える人もいるはずなんですよね。

 そこに訴えかけていくんですね。

 あと海外の人ってけっこうその国の伝統芸能をやっている方が多い。それでじゃあ私も日本の伝統芸能を、っていう人もいるみたいです。

 空港のWi―Fi(無線LAN)を貸し出してはる横にお稽古事コーナーをつくってもらいましょうか(笑)

 今月27日に大阪・国立文楽劇場である「浪花の会」という公演に出られるそうですね。どういった会なんですか。

 日本舞踊協会関西支部の大阪、兵庫ブロックが合同で毎年開いている舞踊公演です。簡単に出してもらえる会ではないので、うれしいです。

 各流儀の若手から大先生まで21番予定されています。僕たちは一番最初に「常磐(ときわ)の老松(おいまつ)」という曲を2人で舞います。

 お能の「老松」をもとにして、松の精が出てきてめでたい曲なんですが、その後、なぜか獅子がチョウと戯れます。「石橋(しゃっきょう)もの」と呼ばれるものと同じで、これもめでたい。めでたいもの同士をくっつけたので、めっちゃめでたくなっています。

 祝言性がインフレしてますね(笑)

 はじめは静かでゆったりと始まるんですが、獅子とチョウの戯れになると華やかで派手になります。そのガラッと変わるところが見どころですね。

 お二人の初舞台はおいくつの時だったんですか。

 僕が1歳3カ月で、兄が2歳10カ月の時です。家元が若を襲名した公演です(1993年)。

 それから特にやめようということもなく?

 気がついたときにはやめようがなかったんですよね。

 僕はいまでもありますけどね。

 弟は昔からこんな感じなんですよ。なんとなく要領はいいのに舞台上ではキラキラしている。見ていると負けたくないなと思います。僕は高校で教えたり、お稽古に出たりして、芸の方に集中しているというか。家元がいろいろなことに挑戦しているので、それをなんとか補強したい。一方で弟は演目や歴史の知識があるし、調べ物もしてくれる。そういう意味でなんとなく役割分担ができていますね。

 僕が芸に集中してないみたいな言い方ですよね(笑)。「上方風流」の夢路いとし・喜味こいし師匠が兄弟で漫才しているという話を興味深く読んだんですけど、お兄ちゃんの方がマイペースで弟がイライラする。でもマイペースすぎてまあいいかってなってしまうってあって。うちもそうやなと思いました。

 うちの先代千作と千之丞もそうでしたね(笑)

新作狂言公演「マリコウジ」、26日京都で

 「100年後の"古典"に」という思いで、茂山童司が新作狂言2本を上演する「マリコウジ」の第3回公演が26日、京都市中京区の大江能楽堂で開かれる。
 今回のテーマは「脇狂言」。面白さよりおめでたさを重視したジャンルで、童司は「そんなに笑えない曲が多いので、上演されないものも多い。その中で面白い脇狂言をつくってみたいと思った」と話す。
 一つ目が「焚(た)き火」。無一文となった男の前にたき火の神様が現れる。アラジンの魔法のランプなど10以上の昔物語を詰め込んだ。もう一つは「道行かず」。都に年貢を納めに行く百姓2人の物語。舞台を三角形に歩くことで場面転換するという狂言のルールを逆手にとった作品だ。
 ほかに童司自ら出演する古典狂言「宗論(しゅうろん)」も上演。午後5時開演。4500円。童司カンパニー(075・751・9046)。

狂言師 茂山童司

狂言師 茂山童司(どうじ)(34)
 1983年生まれ。祖父は茂山千之丞、父は茂山あきら。86年初舞台。自作の新作狂言を上演する「マリコウジ」と、自作コントの公演「ヒャクマンベン」を主宰。

山村若

山村若(やまむら・わか)(26)
 1990年生まれ。父は山村流六世宗家の山村友五郎。93年初舞台。2014年に四代目若を襲名し、宗家嗣となる。

山村侃

山村侃(やまむら・かん)(25)
 1992年生まれ。山村友五郎の次男。93年初舞台。一門の会「舞扇会」に毎年出演するなど、芸を磨いている。

上方風流発行人 山田庄一さん 「人生最大の仕事になった」

 上方風流の創刊号が世に出たのは1963年。発行者の山田庄一は冒頭の「“いいだしべえ”の記」で、こうつづっている。
 「上方文化の衰退が叫ばれ、復興が望まれてすでに久しいものですが、もはや現状は、単に歌舞伎とか、文楽という個々のジャンルだけでは、どうにもならない段階まで来てしまった様です。(中略)生粋の上方育ちが集まって、いいたいこと、書きたいことを発表しているうちに、“明日の上方文化”の方向を見つけることができれば」  山田は1925年、大阪・船場に生まれた。家にはごひいきの歌舞伎役者が出入りするなど、幼い頃から上方の芸能に触れて育ち、交友関係も広かった。刊行当時は毎日新聞で記者をしていた。「学芸部で劇評を書きたかったがなかなかできず、千之丞や米朝に何かできないかと相談したのがきっかけ」と振り返る。
 3人で方々に声をかけてできた創刊号は40歳未満の24人が参加。各界で評判を呼び、2号以降も様々な人間が参加した。だが、山田が東京の国立劇場開場の創立メンバーに加わるため新聞社を辞めたことや、メンバーが忙しくなってきたことから8号を最後に「休刊」状態となった。
 「上方風流のメンバーからこんなにたくさん文化勲章受章者や人間国宝が出るとは思わなかった。人生最大の仕事になった」と喜ぶ。「今はみな忙しいから難しいかもしれないが、孫の世代にも受け継いでほしいね」

◆「上方風流」創刊号の顔ぶれ
【能楽】片山慶次郎、山本真義、大倉長十郎
【文楽】竹本住太夫、竹本源太夫、鶴澤寛治、吉田文雀、吉田簑助
【狂言】茂山千之丞
【演劇】坂田藤十郎、藤山寛美、石浜祐次郎、大村崑
【大衆芸能】桂米朝、夢路いとし、喜味こいし
【舞踊】吉村雄輝、山村糸、山村楽正、花柳有洸、飛鳥峯王
【評論】山田庄一、権藤芳一、嘉納吉郎