須田亜香里さん(左)と井上章一さん=大阪市北区の朝日新聞アサコムホール

特集

須田亜香里さん・井上章一さん、「美人」を語る           10月22日開催トークイベント

「美人とは何か」「アイドル界で上を目指すための思考術とは」―。

AKB48選抜総選挙で今年6位になったAKB48グループの須田亜香里さん(26)=SKE48所属=と、著書『美人論』で一世を風靡した国際日本文化研究センター教授の井上章一さん(62)が、関西スクエアのトークイベントで語り合った。10月22日、大阪・中之島の朝日新聞アサコムホールで開かれ、アイドル取材の経験が豊富な朝日新聞大阪本社社会部の阪本輝昭記者が、司会を務めた。


「かわいい」は甘い。では、「美人」は?


司会  今日は、本をお書きになったお二人にお越しいただきました。本の帯を見ていただくと、井上先生の『美人論』では、「すべての女性は美しいって、ホンマ?」と書かれています。最近、『京都ぎらい』で一世を風靡した先生ですけれども、1991年に書かれた『美人論』では、すべての女性が美しいなんていうことがあるのか、面食いで何が悪いんだと、そういうことを歴史的な経過も含めて研究されています。

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 一方、先日、須田さんがお書きになった『コンプレックス力』の帯には、ちょっと過激な「ブスから神7!?」(※神7=かみセブン、AKB48選抜総選挙の上位7人)と書かれているんですね。

 意見が対立するお二人のように思えるんですが、そもそも美人とは何なのか、それぞれお考えを語っていただきます。


井上 美人は目鼻立ちの整った女の人のことだと思います。というのは、こんな言い方をするでしょう。「あの人は美人だけれども、根性がねじくれてる」。「あの人は美人だけれども、スタイルが悪い」もあり得ますね。でも、「あの人は美人だけれども、顔がむちゃくちゃや」という状態、想像できますか。


須田 できないですね。


井上 スタイルの悪い美人がいる、根性のねじくれた美人がいる。でも、顔の悪い美人はいない。これは数学と一緒やけど、だから美人は顔だと。


司会 そういう本を91年にお書きになって、出版当時も賛否両論、すごく話題になったみたいですね。


井上 こんなのを調べる気になったのはね、明治20年ごろの女学校の道徳の教科書をたまたま古本屋さんで見たんです。その教科書にね、教科書ですよ、「美人には勉強ができません。勉強ができるのは醜い女です」と書いてあったんですよ。どんな授業をやっていたんだろうという興味から。


司会 何で明治時代は、そんなに不美人推しだったんでしょうね。

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井上 きれいな人と、そうでない人を比べると、どうしても、きれいな人のほうがいろいろ得をすることが多いと思います。それは、よくないと一般に思われたので、昔の倫理では、いろんなことがあると、きれいな人が悪いというふうな扱いをしたんですよ。今の倫理は、たぶん民主主義のおかげもあるけれども、「みんな、きれいなんだ」という扱いを・・・。


須田 「みんな、きれいになれる」と、私は信じて生きてますよ。


司会 戦後から現代にかけては、単に容貌が美しいというだけじゃなくて、内側からにじみ出る個性みたいなものを含めて美人ととらえようとか、意味合いが広くとらえられるようになりました。この戦後の変化というのは、どう見たらいいんでしょうか。


井上 美容産業が大きいと思っています。美容産業というのは、多くの女の人にきれいになる努力をしてほしいんですよ。努力をする人が多ければ多いほど、売り上げが伸びるんです。一部の、一握りの人だけを美人にしてしまうと、ほかの多くがあきらめるでしょう。この状態では、化粧品産業の売り上げは伸びないんです。


須田 ほんとだ。


井上 そうするとね、化粧品産業はいろんな形で「あなたも美人です」「あなたにだって、美人になる可能性はあるんです」という文句を振りまくようになるんです。


司会 須田さんが考える美人というのはどういう存在ですか。


須田 余裕のある人とか、時間に追われていない人を美しいな、美人だなと思います。見た目云々じゃなくて、時間にあたふたし、身の回りがいつもぐちゃぐちゃしている人は、必然的に美しく見えない。だから私は、余裕がある人になりたいと思っています。

 それと、「美人」「かわいい」という分け方をされることがよくあるじゃないですか。「この人は美人だよね」「この人はかわいいよね」とか。私は、ずっと、かわいくなりたかったんです。だけど、全然なれなくて困っていたんですけど、この1年ぐらいでふっと気づいたのは、美人とかわいいのとは全然違うということです。

 味でたとえると、美人はおいしいけど、かわいいのは甘いだけの味覚だなと思って。甘いだけを求めても意味がないんじゃないかと気づいたときに、いろいろ吹っ切れて、美人になれるように頑張ろう、おいしいと思える人になれるように頑張ろうと思うようになりましたね。


司会 じゃあ、余裕を身につけて行動するために、須田さん自身が気をつけていることはありますか。


須田 すごく単純なことですけど、前日の夜から次の日の服を用意することです。お洋服だけでもちゃんとしておけばテンションは上がるし、おしゃれに見えるというか、まとっている雰囲気は変わるので。「ちゃんとしている人だ、きれいにしている人だ」と見えるように、寝る前に次の日の服を決めてから寝ます。



言い訳しないため、努力する


司会 『コンプレックス力』の中でも「努力は隠さないほうがいい」と書かれていましたが、がむしゃら感を出していくところと、余裕のあるのを見せるところのバランスは、どういうふうにとっていらっしゃるんですか。レッスンなんかは、がむしゃら感ですね。

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須田 そうですね。レッスンのときに余裕を見せるのは、かっこ悪くないですか? 練習で余裕を見せる、イコール、セーブしてるということだから、練習でできないことは本番でやってもできないという考えなので、がむしゃら感は、逆にレッスンのときに出すかな。

 でも、本番もがむしゃら感、出てますね、私。だって、負けたくないんですもん。周りの人のほうが頑張ってると思われたらシャクなので。


井上 たぶん、お強いと思うんですよ。もてへん男をイメージしてください。もてたいと思うわけです、いろいろと努力するわけです。それで、ふられるわけです、残念ながら。そういうときに「あんなに努力したのに、もてなかった」と思うのと、「全然努力しないから、もてなかった」と思うので、どちらが心の痛手は少ないと思う?


須田 努力しないからもてなかった人ですか。


井上 デートの前に汚くするんですよ、わざと。嫌われますよね。嫌われた後、「汚くしたから嫌われたな」と思うと、きれいにしていても嫌われたかもしれない可能性から逃げることができるわけですよ。そういう弱い人の気持ち、ピンと来ないでしょう?ひ弱な、情けない男たちは、自分のプライドを傷つけないために、いろんな言いわけを考えるんですよ。そんな言いわけを考えないでしょう、努力できるわけやから。


須田 言いわけをしないために努力してるつもりなんです。

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井上 それが強いんですよ。多くの人には、それはまねできない。


須田 やろうよ。


井上 いやあ、すばらしい人やね。もてる、もてないというときに、傷つきたくないという人たちのネガティブな準備の仕方というのを私はよく見ますね。例えば、合コンでわざと小難しい話をするんですよ。


須田 何でですか。


井上 「俺は賢すぎるから嫌われたんだ」と。


須田 ええ?


井上 「自分で必死におもしろい話をしてるのに、興味を持たれなかった」と思うより、傷つかないんですよ。



握手会の女王の極意


司会 須田さんは握手会の女王と言われていますが、どういうことを心がけて握手されているんですか。


須田 昔はリアクションをわざと大きくしてました。ファンの人はどんな人が多いかなって分析したことがあって、しからないでくださいね、自分に自信のない方が多いんじゃないかなって思ったんですよ。

 そういう方って、たぶん自分が会いに行っていいんだろうかとか、嫌がられたらどうしようかとか、不安に思いながら来る方が多いと思うんですね。だから、「あっ、自分が行って喜んでくれた」というのが目に見えてわかるように、「行ってよかった」と思ってもらえるように、不安を取り除くように、わざとオーバーにやってました。

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井上 お客さんの人柄を分析した上での、マーケティングリサーチのような反応をしていらっしゃるの?


須田 意外とオーバーなほうが伝わるんですね。


井上 まあ、時間も短いやろうからね。


須田 そうですね、10秒もないぐらいなので。


司会 すべてのファンの人に喜んでもらうのは、なかなか難しいじゃないですか。こういうときは、こう返す、というやり方があるんですか。


須田 「ありがとうございます」とか「応援しています」で終わることだって、できるんですけど、後で「定型文だったな」と思われない言葉を選ぶようにしてますね。できるだけ、思ったことに素直に反応して返すというのを心がけているからこそ、定型文にならないのかなと思います。



AKB48総選挙は美人コンテストか?


司会 AKB48選抜総選挙の話をさせていただきます。美人コンテストの流れを汲んでいるのかどうか、井上先生はどう考えられますか。


井上 一緒にはできないと思うんだけれども、20世紀の後半に美人コンテストがすごく増えるんですよ。当時はメディアが限られているので、どうしても見た目で選ぶよね。だけど、今はSNS、YouTubeなどでルックス以外の情報をいっぱいもらえるじゃない。投票のあり方は、おのずとルックスだけではなくなってくる。前向きにアイドルとして頂点へ行こうと努力していらっしゃる、その姿自体が、ひいきする人を押し上げる。昔の美人コンテストとは違うようになってきたなと思います。


司会 本当に、そのとおりだと思います。須田さんの中でのAKB48選抜総選挙の意味合いというのは、最初に参加したときから少しずつ変化しているんですか。


須田 最初、総選挙は個人戦というか、もともと13年間クラシックバレエをやっていたこともあって、目標は自分で努力してかなえていくものだと思っていました。上を目指すとか、ランクインを目指すというのは、自分だけの目標だったんです。

 でも、回数を重ねるごとに、1回、1回、票をいただくごとに「これは、自分だけでは絶対に届かなかったところだな」と、いつも思っていて、そのたびに、人と人とのつながりを感じたり、人の支えで自分はここに立っているんだなというのを感じるようになったんですね。

 今も結果にこだわりたい気持ちはあります。総選挙を知っている方はわかると思うんですけど、いい順位になればなるほどテレビにたくさん映ったり、グループで写真が載るときにまん中にいられたり、目立つ場所にいられたりという、目に見える結果がついてくるので、これからも結果にはこだわりたいなと思います。それとともに、ファンの方とか、今の自分を支えている方の顔とかも浮かんで、自分だけの目標じゃないなと思いながらやらせてもらっていますね。



アイドル、何歳まで続ける


井上 お幾つぐらいまでアイドルを続けられますか。


須田 私もそれ、悩んでいるんですよ。


井上 古い話で恐縮ですけれども、昔なら原節子さんとかね、永遠の伝説になるんです。輝いた段階でやめはるから。落ちぶれた段階でやめはるとね、伝説として残らへんのね。


須田 落ちぶれてからやめると、卒業コンサートが地味になってしまうと思うんです。人気があるメンバーの卒業コンサートはすごく盛大なんです。だから、満足するまでやり切って、それが絶頂だったらいいなって思います。でも、アイドル卒業と同時に、テレビにも何にも出てこなくなるわけじゃないです。引退するわけじゃないので。

 引退するなら、やめ方は選ばないです。でも、もしファンの方が「これからもテレビで見たいな」と思っていてくださるなら、それは、需要がある存在でアイドルとしての最後を迎えなければ難しいので、そのためにも、どーんと人気者になりたいですね。




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会場からの質問に答えて


司会 48歳の方から須田さんへの質問です。「全力でいることに疲れることはないですか」。


須田 ありますよ。ですけど、自分がどうしたいかで行動を選ぶようにしていますね。

 全力でいて疲れるなら休めばいいと思いますし、それ以上に、全力を出しても得たいものがあれば、そのために全力を尽くさないと後で後悔すると思うので、これをやらないと後で後悔するかどうかという基準で考えると、わりと頑張れるかなと思います。


司会 井上先生、学者として全力でいることに疲れるときはありますか。


井上 自分に何か取り柄があるとすると、どこかに脱力感があるところやと思っています。肩の力を抜いて。業界には頑張る人が多いのでね。例えば美人論なんて、ほとんどの研究者は目を向けないですよ。でも私は、それがおもしろいと思うわけでね。

 学界のはしごを上っていって、学界のすごろくで上がろうという気が全然ないんですよ。自分がおもしろいと思うことは比較的頑張れるんだけれども、そこは一緒やと思うけれども、須田さんは、どうしてもナンバーワンというところにこだわりがあるよね。


司会 次の質問です。「12月から友人と会社経営を始めます。とても楽しみであると同時に、失敗したら・・・という思いもあります。負のイメージを払しょくする方法があればお願いします」。須田さん、『コンプレックス力』というのは、ある種のビジネス書でもあると思うので、この方にアドバイスをいただけますでしょうか。


須田 たぶん、「自分なら大丈夫」と自信の持てるものを用意できていないんじゃないかなと思うんですね。「自分はこれだけ準備したから大丈夫」とか「これに自信があるから、きっと大丈夫」と言えるものを一つでも多く増やして「これだけやったんだから、大丈夫」と思えたら、怖くなくなるんじゃないかなと。失敗したときに「ああ、だからだめだったんだ」というものが減るように、頑張ってもらいたいなと思います。


司会 質問された方、それで納得な感じでしょうか。


須田 その結果報告も、ぜひ伝えに来てもらえたりしたらうれしいです。応援します。


司会 15歳の女性から須田さんに、「かわいさの秘訣は何ですか」。


須田 かわいく見えているなら、うれしいんですけど。「かわいいな」と思えるしぐさを思い浮かべたりするようにしていますね。かわいいしぐさが自然にできる人って、本当にまれだと思うので。でも、かわいさというのは雰囲気が一番大事だと思うので、雰囲気も自分でイメージして、つくる。イメージすることが大事です。


司会 男性がかわいくなるために、こうしたらいいんじゃないかというアドバイスがあれば、須田さんからいただけますか。


須田 上から目線じゃないとか、そういうところじゃないですかね。同じ目線で笑っていてくれたら、「この人は正直で、無邪気で、かわいいな」って思うかもしれないです。シンプルに、そんな気がします。


井上 でもね、偉くなったおじさんには、なかなか、それができないんですよ。


須田 でも、逆に偉くなったおじさまこそ、「お固いんだろうな」と思っていたらニコッと笑ってくれたときのギャップは、一番破壊力があると思うんですけど。


井上 わかりました。ギャップの破壊力を保つためにも、偉くなったほうがいいということですね。


司会 次のご質問です。「どうしても人前に立つことが嫌だなという日があると思います。そんな場合には、どのようにモチベーションを保ってステージなどに立っておられるのでしょうか」。


須田 できるだけ「あっ、いつもと違う」と思われたくないので、最初はぐっとこらえて、無理して笑って人前に出るときもあります。でも、ステージは自分だけで成り立たせるものじゃなくて、来てくださるファンの方、1人、1人違って、その顔があって、声援があって、それが返ってきて自分の笑顔になって、それで成り立っていくものなので、暗かった気持ちはいつの間にかどこかに忘れて、素直に楽しめているかなと思います。

 だから、最初にぐっとこらえて、「とりあえず頑張ってみよう」というのが大事かなって思います。


井上 私の研究テーマは1つだけに絞っていません。常に3つ、4つ、平行してやってます。だから、このテーマで行き詰まったら、そこで頑張るのではなしに、よそのテーマに自分の興味を移すようにしてます。


須田 一度に幾つもやっていたら「あの研究、どこまで進めたっけ」みたいにならないんですか。


井上 それぞれ、すごく時間がかかっているんです。例えば、私が自分の中では名著だと思っている本に『パンツが見える。』という本があります。これなんかは10数年の調査を経ているんですよ。


須田 そんなに長く。


井上 よく言われるんです。「そんなしょうもないテーマのために」って。


司会 パンツが見たいという心理は、どのように生まれていったのかということを歴史的にひも解いた名著なので、よろしければ、ぜひご一読ください。先生が研究者として最初に書かれた本のタイトルは何でしたっけ。


井上 『霊柩車の誕生』ですね。


司会 やっぱり人と違うというか、ジャンルが独特ですね。


井上 私は、子どもの夏休みの宿題みたいな気分があるんですよ。自分がおもしろいと思ったら、調べようと。そういう子どもの好奇心、僕は大事だと思うんですが、大人になると、こんなテーマを選んでいると学界でどう思われるかわからないという配慮で、おもしろいテーマは次第に敬遠されるようになるんです。

 だけど、私は幸い、研究職というポストでは、まぐれのようにいいポストを与えてもらっているので、あまりすごろくのことを心配せずに、子どものような作業を続けています。


須田 だからこそ、人気があるんですかね。


司会 井上先生の研究遍歴をお尋ねして思ったんですけれども、変わったジャンルとか、人が手をつけていないところに手を突っ込んで、いろいろと独自の研究をされています。須田さんも本の中に書かれていますけれども、人がやらないことをやるというか、前人未到のところへ分け入って、そこで独自性を出しています。お二人はその辺のマインドが似ていると思いました。

(構成 八田智代)


須田亜香里
すだ・あかり 1991年、愛知県生まれ。SKE48メンバー。2009年にSKE48第3期生オーディションに合格し、翌年、正規メンバーに。AKB48選抜総選挙では2013年16位・2014年10位と選抜入り。2015年には選抜外の18位となるも、2016年7位・2017年6位と2年連続の神7入りを果たす。著書に『コンプレックス力 ~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~』(産経新聞出版、2017年)。特技はクラシックバレエと、柔軟性をいかした「軟体芸」。

井上章一
いのうえ・しょういち 1955年、京都市生まれ。国際日本文化研究センター教授。京都大学工学部建築学科卒、同大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。専門分野は風俗史、建築史、意匠論など。著書に『霊柩車の誕生』(朝日新聞社、1984年)、『つくられた桂離宮神話』(弘文堂、1986年)、『京都ぎらい』(朝日新聞出版、2015年)など多数。関西スクエア会員。